ある辞書によればエンターテイメントとは「楽しみ、娯楽、楽しませるもの、催し、接待」という意味だそうです。
以前テレビ番組で「エンターテイメントは日本人の最も苦手な分野だ」と言っている人がいました。
具体的な説明はありませんでしたが、確かにそんな気はします。
私なりの解釈では日本人は感情を素直に表現することにためらいを感じすぎるのだと思います。
というより大勢の前で自分ひとりが感情を大きく表現してしまったら・・・
という日本人特有の周りに合わせる「事なかれ主義」が理由の一つなのではないでしょうか。
ただ、苦手ではありながらこの道を極めようと欲する人間も多く、またそこまでは思わずとも少なからず
興味を持ってその道に関わった人間も多いことでしょう。私もその一人として(もちろん「興味を持って・・・」の方ですよ)
この機会に私の考えを表現してみようと思います。
ではそもそもこのエンターテイメントというのは何なのでしょう?
先の辞書からの引用ではあまりに広義であまりに曖昧です。
一般的にイメージされるエンターテイメントは演劇、音楽、お笑い等です。そしてもちろん手品もエンターテイメントです。
しかしながら楽しませるという観点からは漫画やテレビ番組、はたまた野球やサッカーなどのスポーツも
エンターテイメントといっても差し支えないでしょう。そう考えるとエンターテイメントには無限の種類があるのですが、
唯一の共通点は「楽しませる側(エンターテイナー)と楽しむ側(お客様)が存在する」ということです。
これだけはエンターテイメントの絶対条件といえるでしょう。
では次にエンターテイメントを二つのタイプに分けてそれぞれを分析しましょう。
「楽しませる側と・・・」というのは先に述べたとおりですが、楽しむ側がどういう位置にいるかという点で
タイプを分けます。ひとつはお客様が身近、目の前にいる状態で表現をするタイプ
→(これを仮に「直接型」とします)。
もうひとつはその反対でお客様が遠い、というよりお客様の姿を確認できない状態で表現するタイプ
→(これを同様に「間接型」とします)です。
直接型には手品、演劇、音楽(コンサート)などが属し、間接型には小説などの書物、音楽、映画などが属します。
両者のメリット、デメリットを以下に記してみよう。
〜メリット〜
・お客様が目の前なので表現者がお客様の生のリアクションを体感できる。
・お客様にとっても臨場感を満喫できる。
〜デメリット〜
・表現者はミスをした場合にやり直しがきかない。
・時間、場所が決められるため、お客様にとってはある種の拘束ともいえる。
・お客様は会場までの交通費も含め、結構お金もかかるし、基本的にその一回きり。
〜メリット〜
・編集作業等をして完璧な状態のものを何度でも表現できる。
・「好きなときに好きなだけ」と基本的には自分の都合にあわせて体感できる。
・なんにしても比較的リーズナブルであり、なおかつDVDやCD等で長期保存可能。
〜デメリット〜
・表現者がお客様の声を知るにはメディアの力が必要になってくるし、時間も必要。
・お客様にとって想像は膨らむが臨場感を味わうのは難しい。
という感じでしょうか。結局のところ正反対の名称をもっているのだから性格も正反対ということですね。
直接型、間接型のどちらがいいかはお客様の価値観や好みの問題であり考察することはナンセンスだと
思いますので、実際に両者のメリット、デメリットを踏まえた上で、さらなる特徴づけを考えてみることにします。
エンターテイメントはお客様を楽しませなくてはなりません。逆にいうとお客様が楽しむのならどんな手段を
用いてもいいということにもなります。このことはお笑い番組なんかでよく見受けられる現象です。
全裸で街中を走り回ったり、トークの中で他人を中傷するような発言をして笑いを取ったりというのは明らかに
反社会的な行為であり、道徳に反するとして非難の声が新聞の投稿欄によく載っています。
しかしながらそれを見て楽しんだ人がいるのなら、これは立派なエンターテイメントですので私は否定しません。
また、お客様が存在する以上切っても切り離せないのが「評価」です。評価はエンターテイナーの満足感に直結
するものであり、ある意味では金銭以上に価値のあるものです。しかしながら前記のとおり間接型は評価を把握
するのが非常に難しいという特徴をもっています。
たとえば私達が手品のショーのビデオを発売したとしましょう。
そのビデオを果たして何人の人が買ってくれるのか?また見た人の評価はどうだったのか?
それを知るには専門誌などのメディアの力が必要です。
対照的に手品のショーをライブで行えばアンケート等で手軽に評価が知れますし、生のリアクションである程度把握できます。
このことから考えると「直接型」はアマチュア向けで「間接型」はプロ向けということも言えるかもしれません。
また当然のことながら評価は反省点にもつながるわけですから、次回のショーを見据えた場合、
評価を知るのは早いほうがいいでしょう。
ということは直接型の方がいいのかというとそれはまだ結論付けられないのです。
人間は時間とともに記憶を失う動物です。どんなに楽しかったことでも時間が経てば忘れてしまいます。
それ故「記憶より記録」なんて言葉もあるくらいです。この点では間接型は圧倒的に優位といえるでしょう。
ではここまでの考察を踏まえていよいよ「究極のエンターテイメント」について考えてみましょう。
結論としては究極のエンターテイメントとは「記憶にも記録にも残るもの」ではないでしょうか。
どんな類のショーであってもライブで見なければわからないものというのはたくさんあります。
もちろん雰囲気もそうですし、スポットライトのあたっていない表現者の動きなんかも
ライブでなければわからないものです。むしろそういうところで気を抜かないのがエンターテイナー
の理想ですね。「お客様は常に自分を見ている」という認識、とっても大事なことだと思います。
しかし、そこで得た「記憶」が時間とともに失われた時には「記録」が活躍します。またその記録によって
新たな発見、新たな感動も見出せるやも知れません。この現象は「理由はわからないけどなぜか二日目のカレー
はおいしい」ということに似ているので「二日目のカレー現象」と名付けましょう。
しかし、二日目のカレーが存在するのは一日目のカレーがあったればこそであり、記録の中での新発見は
記憶があったればこそなのです。
ちょっと嫌な余談ですが、当然のことながら記録の中での新発見には悪しきものもあり、「会場で見たときは
よかったけど、今見たらひどいもんだな」なんてものも存在します。このような表現者を、私達は「ライブ芸人」
とか「やり逃げ芸人」という風に呼びます。かく言う私は自他ともに認める「ライブ芸人」です!
エンターテイメントは言うなれば嗜好品です。酒やタバコと同様、接しなければ死んでしまうというもの
ではありません。しかしながら嗜好品ほど品質にうるさいものはありません。死ぬほどおなかがすいた時に
まずいものを食べても腹は立ちませんが、居酒屋で出てきたビールがぬるかったら猛烈に腹が立つものです。
エンターテイメントも同様で、生活上不必要なものなのにお客様は最高のものでなければ決して満足してくれません。
前記の「記憶にも記録にも残るもの」というのは表現する側の理想であり、お客様に対して強要するものでは
決してないのですが、表現者としては一人でも多くのお客様に記憶にも記録にも残していただけるような
表現を常に心がけたいものです。